1919年にオーストリア出身のルドルフ・シュタイナー博士によってドイツに創立されたヴァルドルフ(シュタイナー)学校は、そのユニークで独特な教育により世界中で急速な成長を遂げています。シュタイナー学校は発祥地のドイツに次ぎ北アメリカにも多く、アメリカでは近年、公立の研究開発校であるチャータースクールで、シュタイナー教育を取り入れている学校が相次いで設立されています。

1.教育の目標

科学者兼文学者兼哲学者であり、芸術家でもあるシュタイナー博士は「人智学」という哲学を一貫させた教育を考案しました。「自分で、自分についての意味を与えることのできる個人を創りだすこと」がこの教育の目標です。生徒の「頭と心と手」をバランスよく教育することを目的とし、アカデミックな科目と芸術や運動とのバランスを図っています。教師は生徒の知的好奇心が育つように努力し、授業にも独特な芸術や運動を自由に取り入れています。

2.芸術アプローチ

芸術は、日常と精神を調和的に結びつける力があるので、芸術的なものに触れると人の感情は高まり感覚がその対象に集中します。喜怒哀楽の感情と共に身につけた知識は、鮮明に記憶することができます。つまり芸術によって獲得した知識は頭だけではなく心や体を含む全体に働きかけることができます。生徒の心を育てるために、静かで安心できる環境を作り、規則正しい生活をしています。幼稚部ではカーテンや先生のエプロンや服なども子どもが安心する淡いピンク色を基調にしています。木製の積み木やシルク、綿などで作られた人形など、自然素材のおもちゃを与えています。

3.オーラル(口頭)アプローチ

シュタイナー教育は「オーラル教育」の伝統があります。幼稚園と1年生を通して先生が生徒に童話を話すことで始まります。絵本や紙芝居などは使わず、素話のみで物語を伝え、生徒のイメージを膨らませます。また、オーラルコミュニケーションに習熟することが全ての学習に不可欠であるとみなされています。次に「書き方」を教え、最後に「読み方」を教えます。1年生でアルファベットの歴史を調べ、古代の人々がしたように各字体が絵文字から発展したことを学びます。書くことは生徒の芸術から展開するので、読む能力も自然につき国語の習得も早く進みます。

4.教育の特徴

学校は幼稚部から12年生までの一貫教育をしており、競争によるテストや評点によるランク分けはありません。際立った特徴として、

・年齢が低いうちは学問を重視せず、幼稚園ではアカデミックな内容は存在しません。1年生にも学問的なことは最小限に留め、文字は1 -2年生で慎重に導入され、2-3年までは読みは教えられません。早期教育は精神が疲れるので子どもに悪影響を与えるため、心を育てる幼児期には導入しません。

・低学年では歌や詩、物語りをあらゆる教科で導入するなど、芸術的な方法で教えられます。例えば、教師が黒板に描く絵を生徒が丹念にノートに写し取るフォルメンであったり、算数の公式や外国語を歌で覚えたり、木の実で数を学習したり、体を使って九九を覚えます。自然素材を使って自分で教材を作ることもあります。また全員がリコーダーと編み物を習います。

・1-5年生は教科書は使わず「エポックノート」を持っており、自分の経験したことや学習したことを記録しながら、自分の教科書を作っていきます。上級の学年は、エポック授業を補うための教科書を使用します。

・小学校(1~8年)では、同じ担任が同じクラスを8年間受け持ちます。それ以降は各教科は専門の先生による授業が行われます。

・学校で学ぶことは競争的な活動ではないので、小学校のレベルでは評点はつけず、教師は学年末に一人ひとりの生徒についての評価を詳しく記述します。

・電子メディア特にテレビは、低学年では家庭でも極力控えるように指導されます。生徒の健全な発達にとってメディアは深刻な障害を与えると考えられており、学校では年少の生徒がコンピューターを使うことはできません。

5.カリキュラム

生徒の発達段階に応じて、生徒の想像力を養うようなカリキュラムを考案し、創造性と自由な思考を奨励しています。同じ科目が何度も繰り返され、熟知できるまで教えられます。歴史、国語、理科、数学などの主要科目は、1日に2時間から3時間単位でエポック授業の中で教えられ、各々は3週間から5週間続きます。また、主要科目以外に学年により個別科目として下記が教えられます。

工芸:編み物、かぎ針、縫製、クロススティッチ、織物の基本、おもちゃの制作、木工
音楽:歌唱、五音階フルート、リコーダー、弦楽器、管楽器、吹奏楽器、打楽器
外国語:スペイン語、フランス語、日本語、ドイツ語など
美術:水彩描画、形の線描、蜜ろう・粘土細工、遠近法
運動:オイリュトミー*、体操、集団競技<

*オイリュトミーとはダンスに似た芸術形式で、音楽や言葉を体の動きによって表現するものです。個々の動きが音符や音声に対応します。「見えるスピーチ」とか「見える歌」とも呼ばれており、協調性を高め、聴く能力を強めます。

6.精神的な指導

学校には特定の宗教はなく、あらゆる宗教を背景に持つ生徒達がいます。一般的なキリスト教をものの見方の基礎にしており、キリスト教やその他の宗教の伝統的な祭りが教室や学校の集会で行われます。精神的な指導はカリキュラムには含まれていませんが、生命の美と驚異に対し尊敬の念を呼び覚ますことを狙いとしています。