20代を日本の日系企業で、30代をアメリカ西海岸(シリコンバレー)の米系企業で勤務する方へ取材しました。今は年の半分をアメリカ、半分を日本へ“出張”という形で生活されています。
アメリカと日本の二重生活をしながら感じる「賃金の差」という点を中心に書いていきます。
状況を知り理解することで、子どもに施す教育内容や方針を決定するためのヒントにしていただければと思います。

日本の給与は著しく低い

日本では、新卒給与が500~600万円で高い方と言われます。
また、年収1,000万円まで行けば、「高給取り」と考えられています。年収1,000万円到達が若年層であるならば尚更のことです。

しかし、私が今いるシリコンバレーの企業では給与1,000万円はワーキングプアレベルです。
友人とルームシェアをしながら、生活するので精一杯。新卒でも大卒ならば、最低でも800万円以上ぐらい出ます。
もちろん職種にもよりますが、今一番需要があるコンピュータ・サイエンス系の学部卒生は、1,000万円程度では簡単には採用できません。平均でも1,500万円~3,000万円、数年の経験者レベルであれば数千万円は当たり前です。

事実、私の30代前半の同僚も、ある企業からソフトウェアエンジニアとして8,000万円のオファーが来ていました。

アメリカの給与が高い理由とよくある反論

よくある反論1:給与が高いのはアメリカの一部だけ

これは、事実だと思います。実際アメリカで暮らしていても実感します。特にサンフランシスコを含むシリコンバレーや、LA、ニューヨーク・ワシントンDCなどを含む東海岸もアメリカの中では別の国だと思うほどです。


【出典:https://www.census.gov/library/stories/2019/09/us-median-household-income-up-in-2018-from-2017.html】

アメリカの2018年世帯収入中央値はアメリカ全土で年間約62,000ドル(約670万円)です。

しかし、各州で見れば、低いところでウェストバージニア州は約44,000ドル(約470万円)、高いところではニュージャージー州(マンハッタンの隣でマンハッタンへ通勤する人が多い)は約82,000ドル(約880万円)です。

ちなみに、日本の2017年平均世帯年収は552万円で、一番高い東京都は620万円とのことです。


【出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa18/dl/03.pdf】
※「平均値」は「中央値」より年収の場合は高くなる傾向がある。

アメリカは州ごとに見ても、差がありますが、都市レベルで見るともっと差が大きいです。

【出典:https://www.statista.com/statistics/205609/median-household-income-in-the-top-20-most-populated-cities-in-the-us/】

シリコンバレーにあるサンノゼの世帯収入中央値は約113,000ドル(約1,210万円)、サンフランシスコは約112,000ドル(約1,200万円)です。


【出典:https://news.real-net.jp/pickup/77329】

日本で坪単価が一番高い東京都港区の平均世帯年収は736万円とのことです。
ですので、アメリカの給与が高いのは一部の都市だけであるという反論は正しいと言えます。

確かにこの高水準はアメリカでもトップレベルの都市に限っていますが、ここで比較しているのは日本の収入トップ都市の東京と、アメリカのトップの都市の水準についてです。

よくある反論2:アメリカの物価は高いから、給与が高いのは当たり前

こちらも事実と思います。
アメリカでは昼食には10ドル(1,000円以上)支払わないと、まともなものが食べられませんが、日本では350円で牛丼などあのクオリティの食事が出てきます。
また、家賃ではサンフランシスコで一番安いと言われる少々治安悪い地域のワンルームの毎月約25万円程度と高価です。


【出典:http://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf】

家賃も上がっていれば給与も上がっています。サービスや家賃で払ったお金は誰かの給与で、お互いに給与を上げてきます。
アメリカは給与が上がっています、しかし日本の給与は数十年間ほとんど変わっていません。そして実質賃金は日本だけ下がっています。
日本は給与が下がり、物価も上がらず、後退しています。

物価が安いなら、日本で暮らしていれば生活に支障がでないと考える方もいると思います。

しかし、最近中国人やタイ人が増え爆買など増えたと思いませんか?
ハワイなど旅行して現地のレストランや食事が高くて節約しようとしていませんか?タイやベトナムに旅行しても5つ星ホテルは高くなかなか手が出せないと思いませんか?

日本は外国人から見れば、世界的に「安い割に質の良い国」になっています。
日本は、日本以外の国が日本以上に成長する中で、相対的に少しずつ貧乏になってきています。
少なくとも日本人である自分も、日本に帰国する際はそのように感じるようになりました。
良くも悪くも日本では給与も価格も、その質を保ったまま、「変わってない」と感じます。

これが進むと、世界中で価格のあまり変わらないiPhoneが日本では高くて買えないという日が来るかもしれません。

なぜアメリカ(特に西海岸)の給与は高いのか?

世界的なトップ企業の存在

シリコンバレーといえば、世界的な企業Google、Facebook、Appleなど誰でも知っているような超大企業の本社があります。


【出典:https://money-bliss.com/2019/12/07/jikasougaku-kigyou/】
日本の成長が止まった1990年代と2018年の世界の企業時価総額ランキングです。
時価総額は当時の日本のTOP10企業を全部足しても、今はアメリカのアップルには届かないとも言われています。

世界の富と売上は、それだけアメリカ(今は中国にも)に集中しています。
それだけ富と企業の売上が集中すれば、それがその従業員へ還元されるのは自然です。
さらに、日本のように製造業などではなく、IT系が多いため、物を作って売る時の原価が少ないため、利益率が高い傾向にあります。

トヨタ自動車にとって一番利益を生むのは自動車かもしれませんが、アメリカの巨大IT企業にとってそれは人材になります。
そのため、給与は企業の成長と共に上がっていくのです。

アメリカのベンチャーエコシステム

巨大な利益を生み出す企業以外の企業、つまり中小企業の給与は低いのかというと、そうではありません。
むしろそれ以上の給与を出す企業もあります。そうしないと、人材が獲得できないためです。

無名のベンチャーとGoogleに同額の給与を出されたら大概の人はGoogleを選びます。
ですので、ベンチャー企業はそういった優秀な人材を引き止めるためにそれ以上の給与や待遇をオファーする必要があります。

では規模も売上も少ないベンチャーがどこからそのような資金を持ってくるのか?その答えはシリコンバレーのVC(ベンチャーキャピタル・投資家)です。
アメリカでは将来有望な企業へのベンチャー投資が活発で、それらで調達した資金は開発や人材の獲得に利用されます。

下記は米・中・日のベンチャー投資額の比較ですが、日本は直近約2,000億円に対し、アメリカは9.5兆円、中国は3.3兆円と桁違いです。


【出典:https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.sankei.com%2Fpolitics%2Fnews%2F190124%2Fplt1901240028-n1.html】

アメリカではベンチャー企業でも資金の獲得がしやすく、赤字でも通年数百人規模の採用を行ったり、半年後の資金がないにも関わらず新規で高給与で採用などはよくある話です。お金を貸すVC側は、投資した企業の数社だけでも上場すればもとが取れる投資で、さらに失敗を許容するアメリカ文化では資金調達をして、高給与でトップ人材を雇い、とにかくお金を使って会社を成長させようとします。これらが、超有名企業であろうと、無名のベンチャー企業であろうと、アメリカでは同等の高額給与がもらえる理由です。

それらのエコシステムを取り巻く地域経済

そして最後に、そんな超有名企業でもなく、VCから巨額の資金を調達したベンチャーでもない、昔からある地域の中小企業や個人事業主/フリーランスはどうなのでしょうか?

私の感覚的に、そういった全く関係がないようなビジネスも給与は高給です。
それは、先程の超巨大企業や、高給のベンチャーのエコシステムにあるからだと思います。

シリコンバレーなどの都市では年収数千万円の給与を獲得している社会人がたくさん暮らしているわけですから、それらを客とする商売は儲かります。事実、地価は上がり、1ルーム最低25万でも払えて住める人は無数にいます。大家さんはリノベーションなどしなくても、毎年上がり続ける家賃収入を得ていることでしょう。

ザービス業ならば、顧客が富裕層になるわけですから、それだけの価格をつけることもできます。
こうした地域では新しいレジャーや商品も次々と生まれ、無駄なものでも不思議と売れていきます。

会社間取引でも、先程の巨大企業や資金が潤沢なベンチャー企業を相手とするとなると、相当の額で取引が発生します。
さらに、従業員満足度を高め、社員の流出を引き留めたい企業は、シェフを会社に招いて実演料理をしたり、レストランを貸し切ってのパーティーなどをしている企業も多くあります。
つまり、巨大企業やベンチャー企業が沢山のお金を使うので、地域でお金が回り続けています。そして殆どの人がより多く稼いで、全体の収入をさらに上げて行っています。

日本の現状へ危機感

かつての日本の巨大企業は世界的に徐々に弱体化し始め、有名企業のリストラのニュースもよく聞くようになってきました。
大企業の年収が増えないのは当たり前です。

新しい将来のトップ企業を生む、ベンチャー投資もアメリカなど他国と比較すれば微々たるもので、ベンチャーは人材に払う資金がなく、優秀な人材を獲得するにはビジョンを語って共感で採用するしかない状況かと思います。

そういった、“なるべく予算を抑えたい”企業を相手する中小企業や個人企業も、特に売上は伸びず、そういった企業で働いている事実賃金が増えていない人たちを顧客とするサービス業や物品食品業も、同じように利益を伸ばせません。
こうして日本は「成長していない」状況です。それが相対的にアメリカの給与が高いと感じていると考えています。


【出典:https://jp.ub-speeda.com/analysis/archive/13/】

上記グラフは日本の1世帯の項目別1ヶ月平均消費支出の推移です。

項目別に見れば、交通・通信の割合が増えていることや、食費の割合が減っている事がフォーカスされているのですが、ここで危機的に感じることは、消費の“総額”が90年代から増えずに減っていることです。
日本では90年代から通信費が伸びていますが、それは他の何かを我慢しただけで、総額は減っています。

個人の消費は企業や個人店の売上になります。
それが伸びていなければ、企業も経済も伸びません。これらは一人あたりのグラフですが、日本の人口も急激に減っているとうことも考えなくてはなりません。
給与が伸びない、消費が伸びない、企業は売上が伸びない、社員に支払う給与が伸びない、そして人も増えない、の負のスパイラルが日本では90年代から変わっていません。

最近はインバウンドなどで外国人訪日客を増やしお金を回そうとしていますが、今回のコロナ騒動で相当な打撃を受けています。

日本の技術を海外で売って外貨を獲得しようとしますが、製造業は今中国や台湾、韓国に少しずつ負け始めています。
最後の砦である自動車産業もどこまでもつかわからない状態です。

おそらく数十年後、何か革新的な技術進歩や、イノベーションが起きない限り、日本はただの「観光地」になってしまうかもしれません。

こういった状況を知って理解し、子どもに施す教育内容や方針に活かすべきだと思います。
このあたりについては、幼少期から英語を身につける最大のメリットの記事で詳しく記載しています。