宇宙という分野の現状

ここ数年「宇宙」にまつわる話題が増えてきました。
「宇宙開発」という分野では、国内外の民間企業による人工衛星の開発やロケットの打ち上げなどのニュースが毎月のように報道されています。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」や、アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)が進める火星探査計画「Mars2020(マーズ・トゥエンティ・トゥエンティ)」のような「宇宙探査」という分野では、人類が持つ知的好奇心の核心に迫る「私たちは何者なのか。どこから来て、どこに向かうのか。」という話題から、地球の外へ活動や居住の範囲を広げていくための具体的なアクションまで、ワクワクするニュースが続いています。

さらに「天文学」や「物理学」の分野では「ブラックホールの発見」のような、ニュートンやアインシュタインといった科学者たちの研究成果が証明されてきました。
このような話題を大人は非現実的で自分たちには関係のない世界のことと捉えがちですが、子どもたちにとってはどうでしょうか?

このコラムでは、宇宙に関わる世界の動きや将来展望を見据えた教育投資についてご紹介していきます。

宇宙の魅力が原動力

1969年7月20日。アメリカの宇宙船アポロ11号に搭乗した宇宙飛行士ニール・アームストロングは、人類史上初めて地球以外の天体に足を降ろしました。当時、この様子は全世界に生中継され、多くの人たちが固唾をのんで一挙手一投足を見守ったのは、いまから50年ほど前の事です。

当時の事を知る人は「いままでSFの世界でしか知らなかった宇宙が、自分たちにも手が届く現実のものに感じた」と言います。科学技術による無限の可能性に触れ、自分も何かに係わりたいと思ったそうです。そこには、知識面の難しさや、できるできないといった実現性の問題を大きく超える魅力があったのでしょう。

時が過ぎ、現代においては、気象衛星を利用した天気予報の精度向上やGPSに代表される測位衛星システムを使った位置情報の取得など、宇宙を活用した生活が当たり前になってきました。つまり、私たちは、未知だった宇宙という領域を開拓し使えるようにしてきたのです。

このように「未知の領域」への挑戦は、あらゆる活動の原動力です。特に、豊かな時代を生きる現代の子どもたちにとって、今後も大きなモチベーションとなり得ます。

宇宙教育とは

○○教育と表される教育活動は一般的に「○○【の】教育」を指すことが多いようです。つまり、この法則に当てはめると「宇宙教育」は「宇宙【の】教育」と考えるのが自然です。ところが、いま日本で注目されている宇宙教育は「宇宙【で】教育」という活動なのです。

日本を代表する研究機関のJAXAには「宇宙教育センター」という専門部署が設置されています。JAXAの定義によると宇宙教育は、

”宇宙を素材として、子どもたちの心に自然と宇宙と生命への限りない愛着を呼び起こし、『命の大切さ』を基盤に『好奇心・冒険心・匠の心』を豊かに備えた明るくて元気で創造的な青少年を育成することに取り組む教育”

とされ、宇宙という専門性を高める教育活動ではなく「全人教育」に分類される活動となっています。

ではなぜ、科学技術の最先端をいくJAXAがこのような活動をしているのでしょうか?

それは、これからの時代には科学技術をいう枠組みを超えた人材が必要とされている、と考えられているからです。つまり、専門知識を身につけるだけでなく、それを使って何ができるようになるのか。そして何より「目標に向かって主体的に粘り強く行動していける人材」を育てていくことが重要な施策なのです。

いま「宇宙教育」が注目されている理由がそこにあります。

キーワードは「非認知能力の涵養」です。

非認知能力の涵養

これまで教育の目的として「学力向上」が掲げられきました。

学力は「認知能力」ともいわれ、試験や知能検査などを通じて数値で測ることができます。どれだけ多くの知識を正しく身につけているかという「理解力」や、知識を使って論理的に正しい回答を導き出せるかという「思考力」などが問われます。学力を表す指標として「IQ(Intelligence Quotient:知能指数)」が有名ですね。

これに対して「非認知能力」という、学力として測ることができない能力があります。意欲、自信、忍耐、自立、自制、協調、共感といったメンタル的な側面に関する能力です。
初等教育課程においては、理念としてこれらを高めていくことが謳われていますが、教育目標として基準を設けて育てていく、といった取り組みには至っていません。

これまでは学力が高いほど将来の収入を増やすことができると考えられていました。このため、競うように学力を高める教育がなされ、進路を決める上でも、進学する学校に必要とされる学力を身につけていく教育が続けられています。さらに、幼少の頃から学力の向上を目的とした塾や習い事などの教育投資が積極的に行われる傾向がありました。

ところがアメリカで行われた調査研究によって、幼少期から教育を受けることが「直接学力の向上に寄与し」将来の安定した生活につながったとは「言えない」という結果が得られています。

注目すべきは、学力は、教育を受け始めた時期に依らず年相応に身についていく、ということ。そして、もうひとつの重要な指摘が乳幼児期から受けた良質な教育によって「非認知能力が涵養され」、結果として学力が身につき、安定した生活が得られているという点です。

この研究はシカゴ大学の経済学者で2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン氏によるもので、最近の幼児教育政策に大きな影響を与えています。

宇宙教育と非認知能力の関連

非認知能力は、発達段階に応じて徐々に育まれていきます。

幼児期は、特に「自己肯定感」の醸成に主眼を置きます。子どもにとって自分の居場所が安心できる環境であること、自分がやりたいと思ったことがストレスなく始められ、周りが認めくれることによって、自己肯定感が生まれていきます。

その後、興味関心の範囲が広がり、安心できる環境で多くの失敗を繰り返しながらも、主体的に活動を続けるようになります。また、友だちと共生していく中で、争いや葛藤などに遭遇しますが、子どもたちなりに決め事を作ったり、協力してひとつの事を成しえたりすることを通して、自制とか協調といった能力が自然に身についていきます。

このような経験の積み重ねによって非認知能力は涵養されるのです。

では、どのような分野での経験が、子どもたちに良好な影響を与えるのでしょうか?
それは、ずばり「宇宙」です。

元来、宇宙は「森羅万象」を扱うもの。つまり、身の回りにあるすべてのものが宇宙に含まれています。また人間が本来もっているフロンティアスピリットを掻き立て、あらゆる挑戦を生み出す源になってきたことは揺るぎのない事実であり、しかも豊かになった現代社会においてでも、未知のことが多く、正解のない領域です。

つまり、子どもたちが常識にとらわれず自由に発想し行動できる分野が「宇宙」であり、宇宙を素材とした教育=「宇宙教育」が、非認知能力の発達に大きく寄与できるのです。

宇宙教育の現状

アメリカ航空宇宙局(NASA)においては、STEM教育への貢献として「Space Education」がミッションの一つになっています。対象は、アメリカ国内に限らず、全世界の子どもたちです。

日本においては、JAXA宇宙教育センターの他にも、様々な団体が活動を展開していますし、幼稚園から高校まで各段階の公教育においても、JAXAと教育機関が連携した授業や教員への研修活動が展開されています。

ここでの重要な視点は、幼児教育から初等教育においては、理科的な内容に限定しない活動が多く含まれていることです。そして中等教育から高等教育に移るにしたがい、より専門的な領域の活動になっていきます。つまり、現実的な仕事として「宇宙」を取り扱う分野が見えてくるのです。

10年後の職業観

冒頭でお伝えしたように、気象衛星を活用した天気予報やGPSを利用したナビゲーションは広く知られていますが、それ以外の様々な分野でも宇宙に関連した事業が行われています。

例えば、農業。トラクターなど農機具の自動運転は実用化が始まっています。また、人工衛星から得られるデータを利用し、食物の生育状況を把握したり、水やりや肥料散布作業の効率化を図ったりするものもあります。

保険や金融といった業界においては、地上でのビッグデータに加え、衛星データを組み合わせたリスク解析を行うことで、新しい商品の開発が進んでいます。例えば人工衛星から推定された雨量を活用した保険商品の開発などがあります。

さらに、月面での資源探査や、その活動を支えるための車両開発に民間大手企業が参画を始めています。

身近な話題では、民間人の宇宙旅行はもうすぐ実現し、10年後には一般化していくと言われています。

このように宇宙は特殊なものではなく、みんながチャレンジできる領域になってきています。そんな将来像が見えているからこそ、全人教育としての「宇宙教育」をおすすめするのです。