週に一度のライブラリーデイ
アメリカの小学校は始業のベルが鳴ると一斉に校内が賑やかになります。廊下にリュックサックを掛けて、中から大事そうに本を取り出す子どもたち。今日は週に一度のライブラリーの日です。教室にある返却箱には本が入れられ瞬く間に山盛りになっていきます。キンダーガーデンから最年長クラスまで、図書室に行けるこの日をみんな楽しみにしているのです。図書室にはライブラリアンと呼ばれる図書の先生がいます。アメリカの小学校には、担任の先生のほかに体育、音楽、図書、コンピューターの専門の先生がいて、それぞれが全校生徒を教えています。
本を借りるだけじゃないアメリカの図書室
図書室に入ると、ライブラリアンと補助の先生が笑顔で迎えてくれます。床から天井までぎっしりと本が並んだ本棚に囲まれた図書室で、席に着く間もなく先生たちは子どもたちに囲まれて、質問攻めにあいます。「先週借りた本の続きはどこにあるの?」 「友達の持っていた本と同じものが読みたいの。」「自分で全部読めたんだよ」などなど、話したいことはたくさんです。
また、新学期が始まると本の貸し出しの前に、図書室の仕組みについての説明があります。キンダーの生徒は、どの場所にどんな本があるのか。そしてその本が順番に並べてあること。小学校低学年の生徒は、「本」の部分には名称があることや、違うジャンルの本の探し方、コールナンバーと呼ばれる図書整理番号の読み方などについてです。高学年の生徒は、クラスの課題用のリサーチ方法やその本の探し方、そしてリサーチした内容をパソコンでスライドにすることが目標であることなどの説明です。図書室はただ本の貸し出しをするだけでなく、図書室や本そのもの、本の使い方について学ぶ場所でもあるのです。
プロフェッショナルな図書の先生
最近では、ライブラリアンをメディアスペシャリストと呼びます。その背景には、小学校でもコンピューターがどんどん導入されていることや、インターネットでの情報検索が主流になってきているからです。今までは虫の生態を調べるために図鑑を使ってきました。ところが今では、本はダウンロードして読むようになり、どんなことでもインターネットで調べることが出来るようになっています。ライブラリアンになるためには、大学で図書館学の修士号を取得し、さらに教員免許を取得しないとなりません。現在ではそれらに加えて、コンピューターの講義を受講し、さらに知識を増やすことが求められています。
ライブラリアンの中には勤続40年ものベテランも存在します。そういった先生の授業には宝箱のように新しいことから古いことまで様々な知識がぎっしり詰まっています。例えば「地図の読み方」の授業もあります。インターネットで検索することが日常となっている現在の生徒たちは、「地図」の見方がわかりません。そこで、生徒をグループに分けてそれぞれに大きな州の地図を渡します。全グループに同じ問題「州都を探しなさい」や「縦B-3と横G-8が交わる場所の名前は何ですか」などが渡されます。紙の地図には縦横に線が引かれていて、それを使ってピンポイントで町を探すことが出来る事を初めて知った生徒たちは、いろいろな面白い形のマークを見つけては、それが何のマークなのかを調べます。そういった授業では決まって図書室は賑やかになります。このようにひとつのことを学ぶのではなく、次から次へと知識を繋げていく授業を行います。地図の読み方だけでなく、パワーポイントの使い方、一番人気の著者のシリーズの内容、シェークスピアの有名作品、一番わかりやすい魚の本、などなど先生の宝箱からは様々な知識が飛び出します。
インターネットの時代にあえて読書を楽しむ
一週間に一度の図書の授業。授業の内容は先生や日により様々ですが、毎週必ず一人二冊の本を借りることが出来ます。年齢に合った内容の本をライブラリアンが確認しながら、貸し出しのチェックは生徒が自分で行います。それぞれがどんな本を選んで読んでいるのか、どんなレベルの本なのかをライブラリアンは把握しています。ただ読ませれば良いのではなく、どの生徒にどのような本を薦めたら、読書力が上がり本を読むことが好きでいてくれるのかまで考えてくれます。ただ本が並ぶだけの図書室では、本を読むことから遠ざかってしまうでしょう。ワクワク楽しい図書の授業を通じて、読みものとしての本以外の魅力を生徒に伝えているのです。